ハリはどうやって野鮎に掛かるのか。
アユツールの開発者・山田武男が考察します。



ハリ掛かりの原理

山田武男(日本友釣同好会)

 友釣りの参考書を調べてみるとハリ掛かりの原理として二つの説がある。渦説と反転説である。

【渦説】

 大西満著「新しい友釣り」に詳細に記述されている「野アユが流れに対して直角になったとき、下流側の体側にできる水流の巻き込み(渦)現象にハリが巻き込まれて掛かる」というものである。これが現在ハリ掛かりの原理の通説となっているそうである。この通説には疑問がある。
 渦説に対する第一の疑問は、野アユが流れに直交したときに魚体側面に果たしてハリを巻き込むほどの渦が生じるだろうか、ということであある。魚体が流れに対して直交した状態で静止させてやれば確かに魚体下流側面に大きな渦が生じるであろう。しかし流れの中で魚体が流れと直交し静止することはあり得ない。なぜなら、魚体を静止させるような外力は存在しないからである。あえて渦が生じるような状況を考えてみると、下流から上流に向かって追って来た野アユがUターンする一瞬、上流向きの慣性力と下流向きの流れの抗力が釣り合い一瞬静止した状態になる。では、このときに生じる渦によるハリを巻き込む力の大きさと分布はどのようになっているのだろうか。この点が不明である。渦によるハリを巻き込む力の大きさと分布がわからなければハリが渦に巻き込まれるとはいえない。かりにハリを巻き込むほどの渦が生じるものとし、その分布を考えてみると力の大きさは魚体に近いところで大きく離れるに従って小さくなるであろう。そして力はハリだけではなく糸にも作用する。このような力の分布ではヤナギ仕掛けの場合、元バリは巻き込まれても先バリは巻き込まれないケースが生じる。そうすると「先バリは元バリを押さえるオモリの役割をする」とはいえなくなる。野アユがハリスに接触し、野アユとハリスとの接点に力が加わって初めて先バリがオモリの役割をし元バリを押さえる働きをする。渦説ではハリスの一点に質量が集中しているイカリ仕掛けのハリ掛かりは説明できても離れた二点に質量があるヤナギ仕掛けのハリ掛かりは説明できない。
 渦説は野アユがUターンすることが前提になっているが実際には野アユの攻撃パターンはさまざまでUターン以外の追い方でもハリ掛かりする。オトリが下流を向いているときでもハリ掛かりする事を考えれば渦説でハリGかりを説明するにはあまりにも矛盾が多すぎる。

【反転説】

 日本友釣同好会編「友釣り事典」に記載されているもので長くなるが引用する。「一本バリは三本イカリや四本イカリに比べると甚だ頼りなく見えて、むしろこれで掛かるかと不思議に思われるくらいである。ところが実際には結構釣れるし一つのハリで扱いやすく底石をかく率も少ない。この一本バリでもなぜよく掛かるかというと、それはハリの反転作用のためで、試みにハリスの一端を持ってハリ先を下向きにして流れに入れるとハリは流勢の具合で流れを縫うような状態になっている。そのときハリスのハリに近い横の部分に強く指先を接触してすると(アユがハリスにすれる状態の一部)今まで下向きだったハリ先は突然触れた指に向かって反転し指を刺す。これは流れの中で平衡状態にあるハリスに加えられるショックによって起こるハリの形からくる物理作用に理由するのであって、この作用のために一本バリでも190度(360度?)に近い範囲内で掛けバリとして働くわけである」(一部略)
「流れの中で平衡状態にあるハリスに加えられるショックによって起こるハリの形からくる物理作用」―反転作用―について、もう少し検討してみよう。
 ハリの反転作用とは
図1に示すように、野アユがハリスにすれるとハリは加速度を受け、その反作用でハリが軸を中心として力の加えられる方向(野アユの魚体側)に回転することである。この回転角が大きいほどハリ先が魚体側に向くことになり、ハリとハリスのバランスをうまくとると360度に近い範囲内で掛けバリとして働くのである。
 回転角ψはハリスを円形断面の線バネと考えると(1)式で表される。

ψ=32mrlaSin(φ-ψ)/πGd4・・・・・・・(1)

ただし、m:ハリの質量、r:ハリの軸から重心までの距離、l:掛けバリから逆バリまでのハリスの長さ、a:ハリスの受ける加速度、φ:ハリと加速度との角、G:ハリスの剪断弾性係数、d:ハリスの直径。
K=32mrla/πGd4とおくと

ψ/Sin(φ-ψ)=K

Kが大きいほど回転角ψが大きく掛けバリとして働く範囲が広くなる。Kはハリスの直径dの4乗に反比例するからハリスの太さで大きく変化する。たとえば1号のハリスを標準とするとKの値は0.8号では2倍に、1.2号では1/2に、1.5号では1/3になる。一方ハリのmrはハリの号数が1号変化しても2割ぐらいしか変わらない。
 同一の大きさ太さのハリと糸を用いた一本バリ仕掛けとヤナギ仕掛けを比較すると、ヤナギ仕掛けではハリが2本でmrが2倍になるからKの値は一本バリ仕掛けの2倍になる。ヤナギ仕掛けの場合2本のハリの間隔が広いと、その間のハリスの歪みによりmrは2倍にはならない。従って、2本のハリの間隔を詰め、ハリの方向もきっちり同方向にすることが必要である。そうすると先バリは掛けバリとしての機能を失ってしまう。
図2のようにmrが掛けバリより大きなフックバランサーを先バリの代わりに用いると掛けバリが1本でKの値をヤナギ仕掛けより大きくすることが可能である。すなわちフックバランサーを用いることにより1本バリ仕掛けの死角の問題は100%解決される。
 反転説は1本バリ、ヤナギ仕掛けがハリとハリスのバランスさえとれていればいかり仕掛け同様に死角がないことを説明したものであって3本イカリ4本イカリのハリ掛かりは反転説では説明できない。
 「ハリ掛かりの原理」というからには1本バリ、ヤナギ、3本イカリ、4本イカリ、など、種々の仕掛けに対するハリ掛かりの諸現象を矛盾無く説明できるものでなければなるまい。今までのところ個別的に説明したものはあっても統一的に説明したものはないようである。次にハリ掛かりの諸現象を矛盾無く説明しうる「ハリ掛かりの原理」に付いて考えてみよう。

【条件説】
 野アユがオトリを追う場合、1回の追いでハリ掛かりすることは稀で、何回目かの追いでハリ掛かりすることが多い。また何回追ってもハリ掛かりしないことも多い。これは野アユがハリ掛かりするためにはいくつかの条件を満たさなければならないことを意味する。
 すなわち、何回か追う内にハリ掛かりの全ての条件を満たしてハリ掛かりすると考えられる。
 ハリ掛かりとは、まず野アユが掛けバリ仕掛けのハリスに接触交差し、掛けバリが野アユの魚体に取り付き(ハリが立つこと)、そして立ったハリが魚体にしっかり食い込むことだから、(1)ハリが立つための条件と、(2)ハリが深く刺さるための条件、この二つがハリ掛かりの条件になる。
 ハリが立つための前提条件として、野アユが掛けバリ仕掛けのハリスに接触交差することが必要である。野アユが掛けバリに直接触れて掛かることも考えられるがその確率はきわめて小さいであろう。逆バリをオトリの尻ビレの付け根に刺す仕掛けのセット方法は、野アユがオトリの腹部をねらって攻撃する場合、野アユがハリスに接触する確率が最も高くなると推測される。オトリに対する掛けバリの前後位置は尾鰭から1センチ以内が最も掛かる確率が高いようである。問題なのは掛けバリの上下位置である。逆バリを打った点を通る水平線より掛けバリが下方に位置するほうが野アユのハリスに接触交差する確率が高い。従って掛けバリには適度の重さが必要で、重すぎると接触交差する確率は高くなるが頭部掛かりが多くなり、軽すぎると背掛かり率は高くなるが接触交差する確率が低下し掛かりが遅くなると考えられる。イカリしかけが頭部に掛かる率が高いのはハリが重いためで、1本バリ仕掛けが背掛かり率は高いが掛かりが遅いのはハリが軽すぎるためであろう。
図3参照
 また背掛かりか腹掛かりかは背部がハリスに接触するか腹部がハリスに接触するかで決まる。掛けバリの位置が上方にあると背部接触の確率が高く、下方に位置すると腹部接触の確率が高くなる。1本バリ、ヤナギ仕掛けの腹掛かりは「ハリの反転作用」で十分説明できる。
 掛けバリのオトリに対する上下位置はハリと糸のバランスのみならず流速やオトリの動きで大きく変化する。

(1)ハリが立つための条件
 ハリが立つためにはハリ先の向きが重要で、頭部や鰭はハリ先の向きに関係なくハリが立つが背部、脇腹部ではハリ先が野アユの頭から尻尾の方向に向いていると鱗の上を滑ってハリが立たない。ハリ先が野アユの尻尾から頭の方向に向いていると鱗の重なりの間にハリが立つ。従って野アユがハリスに接触交差したときの交差角θが0<θ<90°の範囲にあることが必要である。
図4参照、交差角はY軸に対して対象だからー90°<θ<90°の範囲を考えればよい。
 1本バリ、ヤナギ仕掛けでは交差角θが0°ではハリが魚体と平行になりハリが立たない。従って1本バリ、ヤナギではハリが立つための交差角はθ0<θ<90°で0°<θ<θ0の範囲がハリ掛かりしない空白部分となる。1本バリのこの欠点を無くしたのがフックステッカーでありフックスピナーである。3本イカリ、4本イカリでは、交差角θが0°でも2本のハリ先とハリの軸端の3点で魚体に接触するので常に一定のハリ立ち角を有し、死角はない。

(2)ハリが深く刺さるための条件
 掛けバリが深く刺さるためには、ハリ先が交差角θで野アユの魚体に取り付き、ハリが前方へ引かれなければならない。
図5に示すように、X、Y座標の原点Oに掛けバリのハリ先があり、Y軸方向にオトリアユが泳力Foで移動し交差角θの方向へ野アユが泳力Fnで移動する場合を考える。ただし流速は0とする。
 交差角θでハリ先が魚体に接しても、ハリ先に加わる力の方向が頭部に向いていなければハリが立たない。図5に於いて、ハリ先(原点0)にはオトリアユのハリを引く力Foと野アユの泳力のY軸方向の成分FnCosθとの差OBと野アユの泳力のX軸方向の成分FnSinθと大きさが同じで逆方向の力ODが作用し、それらの合力OB´がハリ先に加わる。このOB´の方向が野アユの魚体に対して垂直より頭部方向を向いていれば交差角θで魚体に接したハリは取り付き深く刺さることができる。ハリ先に加わる力の方向が魚体に対して垂直というのは
図5に於いてOA´の場合だから、OB´が垂直より頭部方向を向くためにはOB>OAでなければならない。即ち
FoーFnCosθ>FnSinθ・Tanθ

Fo/Fn>Secθ・・・・・・(3)

(3)式が流速0の場合の「ハリが深く刺さるための条件」となる。オトリアユと野アユの泳力比Fo/Fnと交差角θの関係を
図6に示してある。曲線(1)が流速0の場合のFo/Fn=Secθのグラフである。交差角θが30°ではオトリアユと野アユの泳力比Fo/Fnが1.15以上、60°では2以上ないとハリが刺さらない。トロ場で野アユがオトリアユを追う場合、流速の影響が少ないので交差角θは様々な値をとりうる。オトリアユの泳力が十分大きくないと広い交差角に対応しきれない。オトリアユと野アユの泳力比が1以上ということは、トロ場ではオトリアユが野アユを掛けるわけで、オトリアユが元気でないと釣りにならないことがわかる。
 流速がある場合、魚体が流れと平行のときに流圧が最も小さく、流れと直交したとき最大となる。魚体が流れと平行のとき流れから受ける力をFc、直交したときに受ける力をFsとすると、オトリアユはFcの抗力を、交差角θでハリスに接触交差する野アユはFsSinθ+Fcの抗力を受ける。力の方向はY軸の負の方向である。流速の影響のおおよその傾向を知るために抗力のみを考えると、流速がある場合の「ハリが深く刺さるための条件」は(4)式となる。
Fo-Fc-{FnCosθ-(FsSinθ+Fc)}>FnSinθTanθ

Fo/Fn>Secθ-(Fs/Fn)Sinθ・・・・・(4)

オトリアユと野アユの泳力比Fo/Fnと交差角θの関係を、最大抗力と野アユの泳力の比Fs/Fnをパラメーターとしてグラフにすると
図6に示す(2)、(3)の曲線となる。この曲線を境界として上方でハリ掛かりし下方ではハリ掛かりしない。(2)、(3)はそれぞれFs/Fnが1,2の場合の曲線である。Fo/Fnの最小値は1より小で、流速が大きくなるに従って小さくなっている。これは流速がハリ掛かりを助けていることを示し、瀬ではオトリアユの泳力がトロ場の場合より小さくてもハリ掛かりすることがわかる。流速が大きな瀬では流れが野アユを掛けるともいえる。
 
図6を見てわかるようにθ=90°すなわち、野アユとオトリアユが直交した状態ではハリ掛かりしないことがわかる。ハリ掛かりの条件はハリが立つための条件よりハリが深く刺さるための条件の方が狭いからハリが深く刺さるための条件だけを考えればよい。ただし、1本バリ、ヤナギ仕掛けの場合のみθ>θ°という条件が加わる。
 以上ハリ掛かりの原理について考察し、オトリアユに対する掛けバリの上下位置が野アユの掛けバリ仕掛けのハリスに接触交差する確率に大きく影響すること、ハリが掛かりの条件は接触交差角、オトリの泳力、流速の三つの相互関係で決まることを示した。常にハリ先を鋭利に保ち、元気なオトリを使用することがハリ掛かりの条件を満たす上で何よりも大切であることがわかる。
 次に、種々の仕掛けについてハリ掛かりの諸現象を条件説に基づいて説明してみよう。

3本イカリ仕掛け
 3本イカリ仕掛けの特徴は3本のハリが一点に集中しているので重いということである。掛けバリ部分が重いということが掛けバリのオトリアユに対する上下位置が下方に位置し野アユのハリスへの接触交差する確率が高いという利点を生む。一方ハリが重いということが掛かりどころが一定せず頭部や腹部に掛かる率が高いという欠点にもなっている。これらの欠点を最小にするためにハリと糸のバランスをとることが必要で、ヤナギ仕掛けに比べて小さめのハリ太めの糸を使用するのはそのためである。

4本イカリ仕掛け
 4本イカリ仕掛けは3本イカリ仕掛けよりさらに重くハリとハリの間隔も狭い。4本イカリ仕掛けの特徴はこのハリハリの間隔の狭さにある。3本イカリ仕掛けではハリの間隔は120°、4本イカリ仕掛けでは90°でハリ立ち角は3本イカリ仕掛けより大きく、野アユの縦追いに対する掛かり率が高くなる。欠点は3本イカリよりさらに重いために底掛かりが頻発することである。この欠点はオトリ操作でカバーするほか無い。

ヤナギ仕掛け
 ヤナギ仕掛けは質点が離れた二点にあるため掛けバリのオトリアユに対する上下位置が上方になりやすく背掛かり率は高いが、野アユが接触交差する確率が低く掛かりが遅くなる。特に流速のある瀬でその傾向が強い。にもかかわらずヤナギ仕掛けが瀬で人気があるのは3本イカリや4本イカリに比べて根掛かりが少なくしかもバレないからである。友釣りは循環の釣りだから根掛かりやバレはできるだけ避けたい。たとえ掛かりが遅くても循環がとぎれなければ釣果は伸びるという考えからの人気なのだろう。

1本バリ仕掛け
 1本バリ仕掛けの利点は背掛かり率が高く底掛かりやハリが玉網に絡むといったトラブルが少ないことであるが、ハリが1本でヤナギ仕掛けよりさらに軽いのでいっそう掛かりが遅くなる。この欠点をなくすにはハリと糸のバランスをきちんととることだがハリが軽いためにバランスをとりにくい。一般にヤナギ仕掛けの場合より1号大きなハリを使うようにいわれているがハリのmrは2〜3割ぐらいしか大きくならないからほとんど効果がない。ハリの大きさよりもハリスを1ランク細くすれば解決できる。とはいえ1号未満のハリスではハリス切れは避けられない。
 1本バリ仕掛けの糸を細くしないでハリと糸のバランスをとるにはフックバランサーを使う。フックバランサー付き1本バリ仕掛けはヤナギ仕掛けより掛けバリ部分が重く掛けバリのオトリアユに対する上下位置が比較的下方に位置するので野アユのハリスに接触交差する確率も高い。ハリ部分が下方に位置しても着低するのはフックバランサーだから根掛かりは極めて少ない。

おわりに
掛けバリの数が多いほどよく掛かるだろうと思われがちだがヤナギ仕掛けの先バリにはほとんど掛からないしイカリ仕掛けの場合も3本、4本のハリに均等に掛かるわけではなく特定のハリによく掛かる。4本イカリが1本バリの4倍釣れるわけではないから仕掛けのハリ数による釣果の差はない。要は仕掛けの使い方の問題である。各々の仕掛けは利点と欠点を併せ持っており、利点を活かし欠点を小さくするような使い方をすることと自分の使う仕掛けを信じることである。ハリ掛かりの原理がわかれば仕掛けの使い方や選択に自信を持つことができるだろうということで「ハリ掛かりに原理」について考えてみた。

参考文献
新しい友釣り      大西満 著 釣りの友社
アユの友釣り     村松羽峡 著   西東社
友釣りのこつ      高桑健 著  つり人社
友釣り事典    日本友釣同好会編  つり人社
アユの泳がせ釣り   古川トンボ著   西東社
最新アユ釣り全科    村田満 著  産報出版


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